昨日、初場所の相撲が終わった。結果はご存知の通り玉鷲の優勝であった。
34歳の優勝は史上二番目の遅さという事で、遅咲きの力士と言われている。
派手さのない取り口や控えめなパフォーマンスと日本人的な風貌とで、日本にも少なからぬファンは居る様だ。
黙々と鍛錬を重ね、努力を惜しまなかった彼は、これまで大きな怪我をすることもなく、連続出場を1150回近く続けているらしい。これもまた彼の人柄を現わしているように思える。
そんな地味で控えめな印象の玉鷲が、4・5日前に横綱白鵬との取り組みを前にして、
「横綱には勝ちに行きます」と、珍しく大口を叩き、言い切った事を覚えている。
穏やかな眼をして、静かな口調でそう言い切った姿を見て私は、彼の心の中と決意とを観た気がした。玉鷲の自信に裏付けられた決意表明だ、と感じたのである。
そして結果は、有言実行であった。
優勝から一夜明けた今日、やはり地味な印象の師匠である「片男波親方」と共に、マスコミのインタビューに応えた玉鷲の話で印象に残った言葉があった。
「夢は叶えるものなんですね・・」と言っていたのだ。
「夢は叶うもの」ではなく「叶えるもの」といった言葉に、我々の知らない彼の日々の稽古に向かう姿勢や精進する姿が在ったんだな、とそんな風に思いが至った。
そしてその言葉の後ろに、黙々と稽古に励む彼の姿が観えたような気がした。
今回の遅咲き力士の優勝はそんな彼の日々の絶え間ない努力に対する、相撲の神様のご褒美だったのかもしれない、などと八百万(やおよろず)の神の存在を受け入れる私は想ったのであった。観ている人(?)は見ているのだと・・。
そのほか今場所感じたのは「御嶽海の驚異的な回復」と「貴景勝の善戦」、治療を中途半端にして土俵に上がり続けた「稀勢の里の引退」とであった。
マワシ一つの裸一貫で闘い合う大相撲には、沢山のドラマがあり目が離せない。
そして私達観客の知らないところで、黙々と自分と闘っている多くの力士が居ることを、時折知らされるのである。相撲道に励む力士たちの存在を、である。
「出来るだけ永く、出来たら40過ぎまで相撲を取り続けたい」と穏やかな眼で嬉しそうに語っていた玉鷲を、これからも注視していきたいと私は想ったのである。
